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シマノ・バンタムが発売されたのは、僕の記憶が確かならば1978〜79年のことだったと思います。当時ルー・チルドレの下請けとしてスピードスプールの生産で大成功を収めていたシマノ工業にとって、バンタムの投入は決定的なものでした。高校生であった僕たちも、衝撃を受けたことを記憶しています。
シマノ工業製のこのリールは、それまでのリールに比べて大きな特徴を持っていました。もちろん性能もそれなりに高かったのですが、それよりも衝撃だったのはスピードスプール譲りのその形だったと思います。涙滴型をしていたスピードスプールに比べ、バンタムでは更に優美で幾何学的な形をしていました。またその軽さも驚くべきもので、それまでの重いリールに慣れた僕達をビックリさせるのに十分なものでした。
この変形シェイプと右側に集約したノブ類、軽いボディはすぐにアブにも大きな影響を与えることになります。なぜならシマノをはじめとした日本製の変形リールが大成功を収め、世界市場を席巻していくことになるからです。そこでこのページでは、日本製のリール代表としてバンタムとアンバサダーを比較し、アブが日本製リールから受けた影響について探っていきたいと思います。
ここではその各々の代表としてシマノ工業製のバンタム200と、アンバサダー初の変形モデルから2000を取り上げたいと思います。
左側がもちろんバンタム、右がアンバサダー2000のフレームである
先ずフレームの構造から見ていきましょう。この変形シェイプは日本メーカーがはじめたものですので、形を見る限りではアブがシマノの跡を追いかけているのが見て取れます。ちなみにアンバサダーの変形リールは1982年からの登場で、シマノからは4年ほど遅れてのことになります。そしてベアリングが入る部分や遠心ブレーキドラムの構造・位置も良く似ていますね。ただシマノのフレームでは下部に出っ張っている前方部分は、アブではむしろ上方に向いているように思われます。シマノのローシェイプは安定したグリップを可能にしますが、反面グリップとの干渉を発生する場合がありました。特にリール前方にロックが付いているグリップとの相性は悪く、例えばチャンピオングリップではレベルワインダーに干渉してしまいます。アブではこの点を配慮してデザインを改良したのかもしれません。またアンバサダーではバーが1本少なくなっていますが、これはこの部分にモデルネームを書いたプラスチック製のプレートが代わりに固定されているためです。使われている素材はインナープレートのみアルミで、リールフットやバーは真鍮にメッキです。この点では伝統的な手法が使われているようで、シマノが元々はアブのコピーである証拠とも言えるでしょう。また指を置くための板状のサムバーは、2500Cからの盗用と思われます。
左からシマノ、バンタム200とアブ・アンバサダー2000赤の左プレート
プレートのデザインは、形こそ違えコンセプトは似通っています。バンタムではプラスチックプレートの安っぽい型押しを何とか高級そうに見せようとしているのに対して、アブでは伝統的なクレストマークのみとシンプルです。素材はバンタムがプラスチックに金属っぽい塗装仕上げ、アンバサダーはアルミに電解塗装ですが、内側を見るとシマノの安っぽさは一目瞭然です。アブでは伝統的な3本ビス留めですが、シマノではやたらとネジの多い5本です。たいていの場合、やたらとネジ数の多いのがこの頃の日本製リールに共通する特徴の一つでした。
左からシマノ、バンタム200とアブ・アンバサダー2000赤の右プレート
右プレートではサムノブはどちらも2本で、この点ではアブがシマノの真似をしたと考えられます。強度を多少落としても、素早いスプール交換を行えるという2本にこだわる必要があったのでしょうか?仮にそうだとしても、この理屈が大して役に立たないものであることは、皆さん良くご存知のことと思います。当時の日本製の特徴として、こういう役に立ちそうもない理屈を事細かに数えたてるというのがありました。この特徴は現在でもあまり変わっていないかもしれませんね。特にダイワ製のリールには顕著です。メカニカルプレートを固定するブリッジスクリューは、アブ、シマノともに2本です。シマノのプレートに3箇所穴が開いているのは、1箇所が嵌め殺し用の穴だからです。またサムノブのスクリュースリットは、シマノには入っていません。アブでは、この頃すでにサムノブやベアリングケースがステンレス製に変わっていますが、シマノ製は真鍮にメッキ仕上げです。素材の厚みはアブの方がずっと重く、丈夫にできているであろうと想像されます。しかし重量的には薄っぺらいシマノ製に軍配が上がります。
画像左がバンタム200、右がアンバサダー2000のメカニカルプレートとクラッチ機構
メカニカルプレートは、クラッチ機構と共に両者の違いが最も顕著に見られる部分です。アンバサダーでは2500C譲りのプラスチックのバネを応用した方式になっているのに対し、シマノ製ではクラッチボタンがスライドバーを押し上げる方式になっているのがわかります。この方式は従来ダイワのリールに見られるもので、この点ではシマノはダイワ精工から学んだのかもしれません。ちなみにベイトリール市場にシマノが参入するのはダイワのずっと後ですので、これはおよそ考えられることです。素材はどちらもアルミプレートですが、シマノの材質の甘さは特筆もので、指で押しただけで変形してしまうような柔な部分もあります。その代わり、重量はかなり低く抑えられています。耐久性よりも、重量の軽減を第一に目指した作りであることがわかります。シャフトの固定方式はアブではEロックですが、シマノではスクリュー式となっていて、この点では先祖帰りしたような印象を受けます。ただしそのスクリューは、中央部にオイルホールの開いていない普通のネジにすぎません。シマノのシャフトの中央が少し削りこまれているのは、オイルのまわりと摩擦の軽減を目指したものでしょうか?レベルワインダーのギヤの駆動はドライブギヤと直結ですので、スプールフリー時にはどちらもレベルワインダーは動きません。これは明らかにアブがシマノの真似をしたものと言うことができると思います。
画像左はバンタム、右はアンバサダーのもの
スターホイールの足の数は、シマノが3本、アブが4本です。アブは元々5本足が伝統でしたので、この点ではアブがシマノの真似をしたものと考えて間違いないでしょう。もちろんこれは、キャストコントロールノブを右に移したことよるデザイン上の制約もあったと思います。つまりスターホイールの足がノブ操作の邪魔になるので、少しでも隙間を広くする意味で足の数の削減は課題であったのでしょう。しかしあえてシマノと同じ3本にせず4本にして置いたたところが、アブのプライドであったというのは言い過ぎでしょうか?スプールキャップのデザインも、これまた良く似ています。シマノではアンバサダーよりも更に細かいクロス状のエンボスですが、アブでは縦のスリットに改められました。機能的な問題もあるでしょうが、似ているという批判をアブが嫌った一面もあると思われます。
画像上方はアンバサダー2000、下方はバンタム200
内部に入っているギヤはどうでしょうか?これまた良く似ている印象を受けます。しかしシマノでは、まるで初期の2500Cのようにアンチリバースホイールとシャフトが分離しています。この方式は製造工程を省ける反面、シャフトとホイールのガタからシャフトに切れ目が入ったり、ホイール穴が変形するという弱点を持っていました。シマノでは、ホイールを厚めの部品にすることでこの欠点の解消を図っています。ドライブギヤにはクリックスプリングが付いており、ドラグが滑った時にクリック音の出るのがアンバサダーの大きな特徴の一つです。これが長年アンバサダーのドラグは優れているという評価を勝ち得た要因の一つだったと思います。しかしシマノのドライブギヤには、このクリック機構は付いていません。代わりに上部のワッシャーを少し大きなものにすることで、ドラグのフリクションを高めようという工夫が見て取れます。シマノのピニオンギヤの背がやたらと高いのは、ギヤ上部がクラッチフリー時にベアリングケース内にまでせり上がって来る仕組みになっているからです。しかし別にベアリングを介してスプールシャフトごとピニオンギヤを回す仕組みになっている訳でもなく、この意味は理解できません。あるいは製造工程上、加工のために必要だったのかもしれませんが、クラッチフリー時にスプールシャフトとの摩擦部分を増やしてしまうだけで、何か特別なメリットがあるようには思えません。
画像左がバンタム200、右がアンバサダー2000
スプールについてですが、これまたデザインはソックリです。ハッキリ言って、アブがシマノの真似をしたと言って間違いはないでしょう。ただ遠心ブレーキステーの仕様は、アブの場合には2500Cの方式が応用されており、更に簡略な作りとなっています。つまりシャフトにプラスチック製のパーツが差し込まれているだけです。ただ内蔵されているベアリングでは、シマノの方に一日の長があるように思えます。自転車部品の製造で国内ベアリングメーカーとも付き合いが長かったシマノは、フランス製のベアリングを使わざるを得なかったアブよりもベアリングの経験には長じていたのではないでしょうか?