アンバサダー初のツースピードモデル、8000は9000と良く似た特徴を持っています。もちろんそれは同じツースピード自動切り替え機構を持っているという点なのですが、良く見ると細部には多くの違いが見て取れます。ここではあまり関心を引きそうもないそんな違いについて取り上げてみたいと思います。

8000が始めてカタログに登場するのは1964年ですが、当初の販売はアメリカとスカンジナビアだけだったようです。例によって市場調査用としての出荷だったのでしょうか?8000に特徴的なツースピード自動切り替え式のギヤ比は、ローギヤ側が1:2.5、ハイギヤがなんと1:5というものでした。この自動切り替えという画期的なアイディアはアブのオリジナルだと思いますが、切り替え式ギヤというのは、実はアブが1950年代に販売していたABU999にすでに搭載されていたものです。ちなみにABU999はイタリアのコプテス工場で製造されたZangiのリールとされ、3種類の手動式ギヤを備えています。

8000と9000の違いでまず目に付くのは、やはりそのドラグの位置でしょう。9000ではその他のアンバサダーのモデルと良く似た機構を備えているのに対して、8000ではハンドルがシャフト上を上下にスライドすることでドラグの利きを調節しています。いわばハンドルはワッシャーと似た働きをしている訳で、スターホイールがハンドルシャフトの外に出ているのもこのためです。この点では8000のドラグ機構はアンバサダーよりも、2000シリーズの変り種リール、ABU2500のそれに似ているとさえ言えます。ABU2500はダイレクトドライブのリールですが、ハンドルがシャフト上を自由にスライドするという点において、8000と似た仕組みを持っています。逆に言えば、8000は2500の機構を応用したものと言えないでしょうか?

画像中、最も左のみ8000用、残りの3本は9000用ハンドルのバリエーション

上部にあるのは8000と9000のハンドル。最も左のもののみが8000用で、シャフト穴の形状が違うことは明らかです。その右隣にあるものはノブのみ8000と同じ形ですが、シャフト穴の仕様は9000という奇妙なものです。余ったノブをパーツ用として9000にも使用したのでしょうか?左から3番目のものはフットボール型のノブで、1970年代に10000Cなどに使われているものと同じものです。最も右のものは円形のノブで、9000用には普通に見られます。

8000と9000ではプレートの仕様も違います。右プレートを取り上げてみると、8000ではクレストマークが右プレート上に取り付けられていますが、9000は左です。また、9000ではプレート中央部にオイル注入用のスプールキャップが設けられています。

左プレートの側では、9000のモデル表示は全て刻印になっているのに対して、8000ではアブ・アンバサダー銘のみ刻印、モデルナンバーはそれとは別にステッカーで表されています。またスプールキャップは9000では笠付きのゴム製Oリング留めになっていますが、8000では26000などと同じ、スプリングを利用したインジケータータイプとなっています。

画像左は9000、右は8000用の左プレート内部

プレート内部にもいくつかの違いが存在し、その最も顕著なものはクリッカーの仕様の違いです。8000では1750Aにも準じた簡易方式のクリッカーですが、9000ではクリックの両側にスプリングが加えられています。クリッカーや遠心ブレーキホイールの色も8000では黒ですが、9000では白に変更されました。

画像中、左側が9000用、右側が8000用のドライブギヤとシャフト

内部のギヤも、細部に違いが見られます。先ず目に付くのはシャフトの形状で、9000では他のアンバサダーに準じた形をしていますが、8000ではハンドルの外側にスターホイールが付く構造を持つため、ネジ山が切られているのは上部だけです。またシャフトの固定方式も9000ではEロックに似たプレート固定方式式ですが、8000ではスターホイールの上からリテーナースクリューで固定する方式です。この違いは明らかにシャフト穴のサイズに現れていますね。一方のギヤで見てみると、先ずギヤ比の違い(8000では1:2.5と1:5、9000では1:2.5と1:4.2)を受けて、ハイスピード側のサイズが一回り違います。またギヤの厚みも、薄い8000に比べて9000ではロースピード側と同じ厚みに仕上げられています。ちなみに画像中銀色に見えている8000のギヤは、内部に腐食止めのカドミウムメッキが施されているのだと思います。

かような改良が必要になったのも、おそらくは8000のハイスピード側のギヤ比が高過ぎたためではなかったかと思われます。ハイスピード側のギヤ比を高く設定する必要があったのは、切り替え式ギヤという特徴を強くアピールするためであったと理解できますが、なぜスターホイールを外側に位置させなければならなかったのかという疑問は残ります。ちなみにハンドルシャフトの外からドラグを締め付けるというこの方法は、結局は2500ともどもわずかな期間で姿を消すことになりました。