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ハイスピードは、果たして世間で言われている程万能か?この疑問は常々僕の頭を悩ませてきた問題です。ハイスピード派曰く。「リールはハイスピードであればあるほど糸の巻取りが早くできるし、糸のスラックを巻き取ったり、ポイントをはずれたルアーを回収するのに素早く対応できる。結果としてより手返しの早い釣りをすることができるので、ベターである。」
なるほど、この意見には一理あると思わせられる部分も多いことは確かです。しかしハイスピードはそんなに良いこと尽くめなのでしょうか?ここではあまり取り上げられることのない、ハイスピードの弱点を取り上げてみたいと思います。
先ず、なによりも糸を巻き取るために回転しているギヤについて。ギヤ比が高いということは、つまりハンドル1回転に対してスプールが、そしてつまるところは内部のギヤがより早く回転していることに繋がります。回転が速いということは、当然それに伴って起こるギヤの摩擦や磨耗も早くなると考えた方が良いでしょう。
また、ギヤ比を高めるということはつまりギヤとギヤの大きさの度合いを変えている、つまりより大きなギヤと小さなギヤを組み合わせることで成り立っている訳です。リール内部に組み込めるギヤのサイズがおのずから制限されることを思えば、小さなギヤはより小さくなっているはずで、この点で強度的にはかなり負担がかかっているはずです。
上記写真はそれぞれ、現行のアンバサダーに使用されているノーマルとハイスピードのギヤです。ここに見られるように、アンバサダーではドライブギヤ(大きなギヤ)をより大きく、スプールを駆動するピニオンギヤ(小さなギヤ)をより小さくすることでギヤ比を上げていることがわかります。
ギヤ比を上げるということは、言葉を変えればギヤの歯面の数を増やすことでもあります。例えばアンバサダーの場合には、ノーマルギヤの場合ではドライブギヤの歯面の数は57枚、ピニオンギヤの歯数は16枚です。17/57、つまりギヤ比1:3.5625ということになります。メーカー発表は1:3.5ですので、それよりも少し多いことになります。これがハイスピードモデルの場合だと、ドライブギヤの歯面の数は70枚、ピニオンギヤの歯数は15枚です。15/70、つまりギヤ比1:4.66666ということになります。メーカー発表は1:4.6ですので、こちらも若干上回っているということです。
それではギヤの大きさについてはどうでしょうか?ノーマルギヤの場合には、ドライブギヤの直径28.3ミリ、ピニオンギヤ9.1ミリほどです。これがハイスピードになるとそれぞれ30ミリと7ミリになります。明らかにドライブギヤは大きく、ピニオンギヤは小さくなっている訳です。そしてギヤの歯面が刻まれている斜度はハイスピードの方がより斜めになっているのですが、これは歯の接地面積を少しでも上げ、一つ一つの歯面にかかる負荷を分散軽減するためのものです。この方法なしでは、より多くの歯を一つのギヤに刻み込むことは不可能です。
ここでピニオンギヤだけを見た場合、ハイスピードの方はノーマルに比べてより小さな直径のギヤに、より沢山の歯面が刻まれていることになります。当然ギヤの歯1枚1枚はより細く仕上げられる結果になりますし、強度も弱くなるであろうと想像されます。また歯の接地面積も、ギヤ比の低い方がより広く、ギヤ比が高くなるにつれて減っていきます。これはギヤの1枚1枚の歯面にかかる負荷が増えることを意味するので、当然この点でもギヤの負担は増えていると考えるべきでしょう。逆に言えば歯面の数が少なく、噛み込みと接地面積の広いノーマルギヤの方が、より巻き取りの力は強いということも言えると思います。これは車のローギヤの方が、トップギヤよりも物を引っ張るのに向いていることからも明らかですね。
かつて、1970年代にはこの点に目をつけたダイワ精工が、リールの釣力という尺度で強度を表示していたことがありました。具体的に言うと、先ず釣力をA方式とB方式に分け、釣力A方式はドラグを一杯に締めて糸が滑り出す時の強度を、そして釣力B方式はドラグから糸が出ない状態でリールの一部が壊れたときの強度を表すというものです。実際にはA方式ではドラグの仕様によって値が変ってくるし、またB方式では実際にはあり得ない状態での数値がどれほどの意味を持つかという疑問も浮かんできます。しかしリールの強度に目を付けたという点では、評価に値するものだったと思います。
ハイスピード化するということは、つまりは強度とスピードという相反する性質を成り立たせるために、サーカスの綱渡り的な非常に困難な技術が注ぎ込まれているのだということはお判りいただけたことと思います。また同じハンドルの1回転では、ハイスピードギヤの方により多くの負担がかかっていることもご理解頂けたでしょうか?この相反する要素こそが、メーカーが技術の粋を競う部分でもありますし、今日においても新しい技術の開発に苦心している部分でもあります。
ご覧のように、昨今もてはやされるハイスピードも、良いことばかりではないことがご理解いただけたことと思います。もちろん僕の意図は皆さんを脅すつもりのものではありませんし、メーカーとしては強度に絶対の自信を持っているからこそ製品化して販売している訳です。ハイスピードギヤの利点と共に弱点も理解してもらい、対象魚と釣法に適したタックルで良い釣りを愉しんでくださいね。